Conversation about the kingdom of fire

Ideas NOT worth spreading、お前の悪口、そしてお前の肉親の悪口

男性、女性、その合間

anond.hatelabo.jp

 

 ここら辺の記事が気になる。私の体感を記する。福岡にいた時代にフィリピン人のニューハーフさん(タガログ語で"バクラ"と呼ぶらしい)達が舞い踊るパブでバイトしていたことだ。そもそも何故そんな不思議なところで働いていたかと言うと、まずは友人に騙された。そして、精神分析のゼミに潜り込んでいた時、"水商売を経験しなければならない"とふとPassion(情熱/受苦)を感じたからだ。

 

"Bukkakeスル?"
"しないよ?"
"ジャア、イツスル?"
"いつとかじゃなくてしないよ"

 

 これがバクラさんとの最初の会話だった。日本語とタガログ語とBroken Englishが飛び交う、吹き溜まり中の吹き溜まり。牛丼屋さんで韓国人を片言の英語で厳しく叱責するフィリピン人(ニューハーフ)。女の人が接待する店から出入り禁止をくらったような下級の悪党が性サービスを求めて入ってくる。私は数名のバクラさんとバイのダンスティーチャーに気に入られ、色々と世話を焼いて貰っていた。

 

 "私たちは家族だ"、と職場のみんなはそう公言し、私を沢山のトラブルから護ってくれた。私は性的にはヘテロセクシャルであるため、上記のようなアタックを"姉弟でそんなことするのはおかしいよ"とかわし続けていた。店を閉め、仕事後のパーティを終え、バクラさんの顎に髭がまばらに見えるようになってきた朝、頬にキスしたをせがまれた。"家族としての親愛の表現だからいいだろ"ということらしい。高度な情報戦だ。

 

 その時、「ああ、どんなに綺麗でも、この人はやっぱり男なんだな」と思った。体温の高さ、皮膚の厚さ、それに不釣り合いな障壁の薄さを思った。激越な祈り、脆い生。クビレを作るためにアバラ骨を切除し、女性ホルモンを打ち続け、生を擦り減らしながら駆け抜ける人たち。原理主義的な思想とは全く相容れない仄暗い何か。これがレヴィナスおじさんの言う<女性>ではないか。ここら辺にしか真実はないのではないか。

 

 虚無と悲しみが曖昧な私であるが、ふと悲しみが去来したことを思い出す。

 

 なお、当のバクラさん達はわりとあっけらかんとしていた。バクラさんたちは凄まじい勢いで外貨を稼ぐため、フィリピンでは大変尊ばれるらしい。日本で言うと親類にプロ野球選手が誕生した、ぐらいテンションが上がる事態だそうだ。貧乏学生だった私の数千倍稼ぎ、自分のビルを所有し、その屋上で馬を飼育するバクラさん達。タフだ。