Conversation about the kingdom of fire

Ideas NOT worth spreading、お前の悪口、そしてお前の肉親の悪口

<母>と闘う、或いは『ラプンツェル』って『ダイ・ハード』みたい

 ブラック企業とは、ある種<母>なのではないか。

 

 『ラプンツェル』を観たのだが、それはもう面白かった。周到に積上げられるプロットとディテール、それらの生み出すソリッドな快感が『ダイ・ハード』のようだった。キャラクターは愛らしく、髪を使ったアクションの爽快さも新鮮。あと、私の乏しいディズニー経験の中で一番王子様役が愛しく描かれており、「あーもーお前ら付き合っちゃえよ!」とやきもきしたりもした。兎に角最高なので、諸賢もご覧になるといい。

 

 インタビューで「元々は原作に忠実にやろうとしてたんだけど、何か新しくてフレッシュなものにしたくなったんだ」と語っていた通り、非常にフレッシュに感じた。ここでは<母>との死闘が描かれている。父親との闘いって、それと較べたら楽だ。年収なり腕力なり、取り敢えず同じ土俵で勝敗が決する。<母>は愛という形で束縛し、収奪し、土俵も何もないところで生命を脅かすことが出来る。

 

 曰く「外界は危険なので私が護ってあげる」。
 曰く「私の腕の中から出るとお前は死ぬ」。
 曰く「私はあなたを愛しているからこのようなことを言っている」。
 曰く「そんなことよりご飯何食べたい?」。

 

 このような者とどう闘うかが描かれている作品は少ないように思う(私の無知も当然あるが)。そういう意味でとてもフレッシュだった。また、上記のような収奪の在り方とブラック企業の収奪の在り方はよく似ているように感じた。夢や同僚への友愛で雁字搦めにし、そこ以外では生きていけないように賃金を低く設定し、それを努力や成長という言葉でコーティングして生命を擦り減らす、その悪辣さは<母>ではないだろうか。

 

 ひょっとしたら『ラプンツェル』って現代日本の社会の在り様と闘うための指標にもなるかも、と思った次第。