Conversation about the kingdom of fire

Ideas NOT worth spreading、お前の悪口、そしてお前の肉親の悪口

ジョミニ、クラウゼヴィッツ、そしてマーケティング

 『マーケティング戦争』という本が面白かったのでご紹介したい。この本はクラウゼヴィッツの『戦争論』を下地にしてマーケティング時における様々な戦術と戦略を紹介している(酔狂だなあ)。後半は実際に起こったシェア争いの歴史が盛り沢山で、単なる読み物としてもエキサイティングだった。

 

 まずもっての大原則として。

  • 防衛戦は圧倒的に強い。
  • 数が勝るほうが勝つ。
  • 戦術に適応する形で戦略をデザインする。
  • マーケティングにおける戦場とは顧客の脳内、イメージである。

 

 地の利、人の利を考えると防衛戦が圧倒的に強いことは解ると思う。例えば遥々見渡せる平原に敵がおり、安全な城から射撃出来ればとても楽そうだ。そしてどうしたって人 / リソースが多い方が勝つ。そして戦術に合わせて戦略をデザインしなさいってことは、とどのつまり"出来ない計画立ててもしょうがないでしょ"ということだと思う。最後に、マーケティングにおいてこのような戦争行為はスーパーマーケットや流通で起こるのではなく、顧客、消費者の頭の中のイメージを占める割合の取り合いである、と。本書では4つの戦術が紹介されている。

 

防衛戦の原則 - Principles of defensive warfare

  • 防衛戦とはトップ企業だけが採り得る特権である
  • 最高の防衛戦は、我が身を絶つ勇気を持つことである
  • 競争相手に手ごわい攻撃を仕掛けられたら、必ず手を打たねばならない

積極攻撃の原則 - Principles of offensive warfare

  • 真っ先に考えるべきことはリーダーの持つポジション
  • リーダーの持つ強みに潜む弱みを見つけ、そこを攻撃せよ
  • できるだけ絞り込んだ前線で攻撃を開始せよ

側面攻撃の原則 - Principles of flanking warfare

  • 最善の側面攻撃は手つかずの攻撃を仕掛け、競争者のいない分野で展開すること
  • 不意打ち作戦大事。側面攻撃は、本質的に不意打ちである
  • 追撃は、攻撃と同じほど大切である

ゲリラ攻撃の原則 - Principles of guerilla warfare

  • 十分守りきれる程度の規模の市場セグメントを見出す
  • どんなに成功しても市場リーダーのように振る舞ってはならない
  • いつでも退却出来る準備を怠らない

 

 それぞれ私なりに要約してみる。防衛戦では常に防衛を怠らず、また攻撃的防御としてイノベーションを起すこと。積極攻撃では攻撃目標を観察し、強みと思われていた点に弱みを見つけること。例えばコカ・コーラはコーラの始祖であり王道であるという強みがあるが、そのイメージはそのまま古臭く陳腐化したもの、というイメージに逆転出来る。そこを集中的に攻撃すること。側面攻撃ではリーダーに攻撃を仕掛けるのを悟られず、同じ分野で差別化を図り(小型化、低価格化等)、それを波状的に行い続けること。上記3つの戦術とは違い、ゲリラ攻撃はリーダー企業やそれに類する企業と争うことを極力避け、彼らの手が届かないところで戦線を展開すること。また、逃げ道は常に確保しておくこと。

 

 ……このように私は読んだ。諸賢の興味が引けたら僥倖。面白いよ。

 

 それにしても。畏友が「クラウゼヴィッツは文体がクドい」とぼやいていたのが面白かった。文体がクドいという時点で何だか笑える。ジョミニも相当にクドい。フッサールあたりになると2ページに一回は本を閉じたくなる、つまりページを捲るのが一々億劫になる。また、失礼な話かも知れないが、あまりそちらに興味が行かない方だと思っていた人が原典に当たっていたことも不思議と愉快だった。