Conversation about the kingdom of fire

Ideas NOT worth spreading、お前の悪口、そしてお前の肉親の悪口

ワイルド スピード 新宿駅近辺ミッション

 ハローワークに行くに際してスーツで武装しようと最初から決めていた。Heavy Metalのフォーマルな装いとしてのデニム、レザー、Heavy Metalパッチを着用するということは、そのまま就職する気がないということを伝えているようなものであり、私が持っているカジュアルな服装のほとんどがそれだからだ。何となく気圧されないように、ということが一番大きい理由だけれども。

 

 そしてその作戦は正解だった。金髪にピアスだらけのヒョウ柄の女、スリッパ、ミッキーマウスがやたらとプリントされたパーカー、そして<母>に何かしらビザールな愛憎でも注がれたのかという太り具合の男、今にも灰になって風に消えそうな青年……私たち、いかにも失職しそうだよな。そのような愚連隊に囲まれて、私はさぞ就職したそうに見えたことだろう。職員さんの親切さが高級料理店のそれだった。

 

 私は失業給付認定日、大変に急いでいた。寝坊だ。起きたのは09:00。認定日の受付時間は09:30~09:50という極端に短い上に何らかの認知科学でも働いてそうな微妙に気の急く設定になっている。加えて労働者の群れが押し寄せたら最後まともに機能しなそうなエレベーターまである。急いで支度をして煙草を吸い、駅のある大通りに出たところで空席のタクシーに出会った。天の恵みだ。

 

 天の恵みだ、その時はそう思った。それは間違いだった。ドアを開けたのは70歳くらいの男性。目的地を告げると"昔はそんなビルはなかったから、取り敢えず近くまで行きます"とのたまう。結構だ。ご高齢である分、信号無視や法定速度ぶっちぎりに罪悪感をあまり感じないらしいので、取り敢えず目的地に寄せれればそれでいい。住所を伝えたのに、そこにあるカーナビは飾りなのか。


 曰く"貧乏会社なんでね、古い地図しか入ってないんですよ"とのこと。果たして飾りであった。私は自動車免許は持っているがほとんど運転したことがない。東京で車を購入するつもりもない。それ故、必然的に移動手段は歩きか電車、地下鉄になるため、余程歩きなれたところじゃないと土地勘が効かない。私が毎度道に迷うなりして飲み会に遅刻するのはずぼらなだけではなく、このような構造的なハンディキャップがあるためだ。

 

 甘かった。近くに寄せて貰って"ここら辺のはずなんですがね"と言われても東西南北見当も付かない。降車して道を聴いてくる旨告げ、近くにいた警備員さんにハローワークへの道順を訊く。"そこの十字路を左に折れていただくと新宿駅に向かいます。新宿駅のすぐ近くの大きなビルです"と懇切丁寧に教えて頂く。ありがとう、その辺には大きなビルしかないから何の目印にもならない。

 

 車に戻り、道順を告げると、カーナビにようやく住所を入力してくれた。"あー、わかんないっすね"……早く行けよもう住所とかそういう問題じゃねえよ。車窓に貼り付きハローワークを探すという<眼>の役割を果たし、運転手さんには<脚>の役割を果たして貰う。チームワークだ。なお、新宿駅近辺は非常に混雑しており、<脚>の役割は機能していなかった。受付に到着したのは09:45であった。

 

 Lesson Learned:寝坊はするな。