Conversation about the kingdom of fire

Ideas NOT worth spreading、お前の悪口、そしてお前の肉親の悪口

『アメリカンスナイパー』について下 、或いは『GROUNDLESS』って凄く面白いよ

 超長距離カウンタースナイプとか、諸賢も大好きでしょう? そうでしょう? そうに違いない。

 

 『極大射程』を引き合いに出してもいいけど、サブテキストとして『GROUNDLESS』を参照したい。『GROUNDLESS』は漫画で、これが滅法面白い。凄腕の狙撃手とそれを取り巻く兵隊の物語だ。絵柄がちょっと昔風でかわいらしいけれど、結構シビアな戦闘が描かれており読み応えがある。観測手が狙撃手を導く、あるシーンを引用したい。

 

大きく息を吸って、
大きく吐いて。

 

もう一度大きく吸って、
半分吐け、

 

息を止めろ、

 

撃て!!

 

 燃えるでしょう? そうでしょう? そうに違いない。このように射撃と呼吸は密接に関わるものらしい。

 

 本題。『アメリカンスナイパー』は恐ろしい作品だった。呼吸の音、呼吸を止めた無音、発砲時の轟音、着弾し肉体の爆ぜる音、そして排莢の澄んだ音。そこに響く爆発音と子供のあまりに壮絶な悲鳴、ヘリの騒音、女の泣く声、ドリルの間違った使い方の音。刻々と戦争の爪痕を刻み込まれる。呼吸をコントロールされる形で。先のエントリーでの"辛かった……"とはそういうことで、私たちはその時、正しく射界(Kill Zone)に、戦争に放り込まれていたのではないか。

 

 不和の目、不安の目、疲れて虚ろな目、恋人とじゃれあっているときの無邪気に煌めく目、そしてスコープを覗く目……全てが不思議なぐらい雄弁であった。それらは主人公の"奴らは蛮人だ"という殺人を正当化する言葉を無残に裏切る。なんという悲痛。『アメリカンスナイパー』が過たず狙撃したのは、アメリカ自身だったように思われる。Nice Killだと思う。

 

 ことほど左様に非常にへヴィな作品であり、私がもう一度観るとすれば、随分体力の回復を待つ必要がある。然るに未見の諸賢におかれましては、是非劇場に足を運ぶことをお勧めする。DVDでは音圧が足りないと思われる。

 

 付け加えると、狙撃のかっこいいシーンや、かわいらしいシーン、色っぽいシーンや、海兵隊ばりの訓練シーン、ドリルの間違った使い方を学べるシーンなど、『インビクタス/負けざる者たち』よりもサービスてんこ盛りで、クリント・イーストウッドが白米に加えて豚汁を出してくれる感じだ。勿論随喜の涙を流しながら私はそれを美味しい美味しいといただいた。

 

 最後に良いか悪いかで言ったら凄かった、としか――<克服あれ>