Conversation about the kingdom of fire

Ideas NOT worth spreading、お前の悪口、そしてお前の肉親の悪口

私が見たかったやや一般的ではない『ベイマックス』

 『ベイマックス』の懐かしくもフレッシュな風景や日本のアニメ・特撮特有の間、見栄の切り方を私はとても楽しんだ。主人公を日本人という設定するだけはある、優れた描写であった。その上で、私が見たかった『ベイマックス』を述べる。以下、残虐にネタを割る。

 

 まず、孤児である主人公がチンピラ街で賭けロボット勝負をする出だしはOK。兄の大学で本物のエンジニアリング、<学び>ということに激しく心を揺さぶられるシーンもよい。

 

 問題はその後だ。ここから改変したい。艱難辛苦の末大学に合格し、仲間と共に<学び>の醍醐味であるブレイクスルーを経験する。それは先の動機付けのシーンに登場した教授により齎される。仲間達はそれぞれに秀でた才能を持ちつつ、何処か大変な喪失を抱えている。

 

 そこまで溜めてから、本作の事故で兄を失うのだ。ベイマックスというヘンテコ(ケア・ロボットだそうだ)を託されて。巷を騒がす怪人の調査を行う最中、ついにその正体が恩師であったと分かる。主人公を導いた恩師が、エンジニアリングが悪を成す姿に主人公は激しく狼狽し、やがて失意の底に落ちる。その落ちた先は冒頭のチンピラ街だ。

 

 仲間とも疎遠になり、チンピラ街で無双の強さを見せる主人公。しかし心は虚無に侵されている。そこで本編でも登場した賭け事師の女の子となんとなく馬が合う感じになる。彼女は例の大学からドロップアウトしており、主人公と虚無を束の間共有する。しかし解っているのだ。こんなことが永遠に続くはずながい。彼女はある日"雑魚相手にしててもしょうがないだろ"と主人公を邪険に追い返す。本来いるべき場所に。

 

 更なる失意の中、彼は再びベイマックスと対峙する。それは兄に関する辛い思い出の象徴であり、彼はどこか憎しみのようなものまで覚えている。無邪気にケアしようとするベイマックス。振り払う主人公。そして、彼はあるきっかけでベイマックスの本当のコンセプトに気付く。兄の卓越に気付く。そのコンセプトの欠陥も。困難な問題だが解決しなければならない。彼はエンジニアリングと再び出会う。

 

 疎遠になっていた大学の仲間に呼びかけ、一丸となって恩師の凶行を阻止するために血のにじむような努力を重ねる。その過程で仲間達もそれぞれ自らの喪失を肯定的に捉え直していく。恩師を止めねばならない、これ以上彼にエンジニアリングを汚させてはならない。激しい闘いの末、本作にも語られる、ある離別へと到達する。主人公は恩師もベイマックスも兄に関する全てを喪失する。

 

 しかし、その喪失には希望が託されていたのだ。兄の残したコンセプトと思われていたもの、それすら凌駕するような兄の直観、予見:ベイマックスの仕様の謎。何故ベイマックスはあの時嘘をついたのか。人間ならざるものに何故嘘をつくことが出来たのか。三度、主人公はエンジニアリング、そして兄の卓越に出会う。彼はもう孤独ではない。人類の<祈り>の大河に彼は身を投じたのだから。